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半世紀も前に生まれた社会システム「古紙回収」
Interview

高津社長のサステナ見聞録

#02(前編)

半世紀も前に生まれた社会システム「古紙回収」

(公財)古紙再生促進センターに聞く、紙管古紙の再生ルートにおける新たな可能性

Interview
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高津

当社は紙の器を作っている会社ですが、最近、ゼロ・エミッションに取り組まれいるお客様から、当社の紙管を納品するタイミングで使い終えた紙管を回収し、次回その紙管からもう1回再生した紙管を納品してくれないか、という相談をいただきました。高津紙器の紙管はそもそもダンボールのリサイクル原紙から作られていますよ、という話をしても、いや、工場が「ゴミゼロ」を実現するには、その工場から出た紙管ゴミをもう1度、工場に直接資源として返して欲しいというんですね。
また、当社では紙トレイも作っているんですけど、脱炭素社会に向けて脱プラの流れから紙製に置き換えたいというご相談が大変増えています。紙は再生可能な資源であるだけでなく、分解しやすいサステナブルな素材です。しかし紙トレーは使い終わると燃やされてしまうので、牛乳パックのように再生紙の原料に回す方法はないのだろうか、と勉強を始めたところです。


紙管と紙トレー

紙管(左)と紙トレー(右)


今日は古紙の再生について、技術や回収の仕組みなどいろいろと学びたいと思って参りました。どうぞよろしくお願いいたします。

まず、この古紙再生促進センターについて教えていただきたいのですが、どんな経緯で設立されたのですか?

古紙再生促進センターが誕生したのは高度成長期のすぐ後

センター

当センターは、当時の通産省(現経産省)所管のもとで、1974年に設立されました。当時の紙パルプ工業は森林を伐採し、水や空気を汚染してしまうことのある産業でしたので、その社会的な責任が問われていたことや、高度成長期を経た消費社会で紙ゴミがどんどん増えていたこと、森林資源を枯渇させないよう、もっとリサイクルできる紙を資源化しようという機運があったこと、古紙回収関連の事業者の社会的立場がまだ弱く、事業の拡大が難しかったことなどの社会的な背景がありました。

そこで、通産省(現経産省)の構造審議会でどんな組織が社会に必要かが議論されました。再生紙を安価に生産するには、製紙会社、資源問屋が合体したような組織が必要だということになり、古紙再生や紙資源の循環利用、その普及啓発を目的に、それぞれの立場で意見を言い合える場所の提供と、回収事業の資金調達支援などの機能を実現する当センターが設立されることとなったのです。

左から 業務部 技術担当部長 甲斐和生さん、業務部長 兼 業務課長 中田広一さん、業務部 業務課 担当課長 吉田和正さん

左から 業務部 技術担当部長 甲斐和生さん、業務部長 兼 業務課長 中田広一さん、業務部 業務課 担当課長 吉田和正さん

高津

もうすぐ半世紀にもなるんですね。素晴らしい。

センター

もうひとつ、ここが特徴的なのは、古紙を売る立場の問屋と、それを買い再生紙を生産する製紙業者が協力して資源の循環を目的に運営されている事業である、ということです。それは当時から新しかったと思います。

高津

確かに・・。この50年はどうでしたか。

古紙回収率が80%を超えるまでの道のり

センター

最初はまず製紙メーカーが買う古紙と、問屋の古紙、再資源化するための明確な規定がなかったので、両者が共有する古紙品種と規格を作ることに取り組みました。その後、メーカーの再生技術も進んで、できるだけたくさん古紙を使おうという流れになってきたので、規格よりも古紙の安定供給を目指して活動するようになりました。

70年代の終わり頃には、一般家庭をつなぐ集団回収が実施されるようになり、これを広める啓発活動をはじめました。全国いろいろなところへ足を運び、継続的に説明を行った成果として古紙の回収率は順調にあがっていきます。80年代後半になると、環境問題が浮上し、国として資源の有効利用をはかるための法律が整備されていきます。そうすると行政も動き出しますので、今度は全国ではじまった自治体の資源回収について調べながら、より良い回収方法が普及するように活動していきました。

高津

法律とおっしゃったのはリサイクル法とかですか?

センター

循環型社会形成を推進するための法体系として、まず環境基本法が根幹にあってその下に「資源有効利用促進法」があります。この、資源化できるものはきちんと資源に回しましょうという法律の後押しを受けて、90年代はさらに資源回収が進んでいくんですね。

循環型社会形成の推進のための法体系(『古紙ハンドブック2021』より)

循環型社会形成の推進のための法体系(『古紙ハンドブック2021』より)

古紙回収も2000年あたりで60%まで上がってきます。このグラフをちょっと見ていただきたいのですが、2000年を境にして古紙回収率と利用率が大きく離れて差ができていくんですね。回収率が上がって日本国内での利用が追いつかなくなりました。

古紙回収率及び古紙利用率推移グラフ(『古紙ハンドブック2021』より)

古紙回収率及び古紙利用率推移グラフ(『古紙ハンドブック2021』より)

高津

本当だ、2000年から大きく変化しますね。

センター

この頃、ご存知のように中国の生産力があがり「世界の工場」と呼ばれていたのですが、当時は中国国内の古紙回収システムが十分でなく、海外から古紙を買い集めていました。古紙輸入大国です。ですからこの時期から、日本の余剰古紙はたくさん中国へ輸出されるようになりました。買取先が出来たことでその後の10年ほどで日本の古紙回収率はついに80%を越えていきます。産業系の古紙と、一般家庭の新聞・雑誌・ダンボール・牛乳パックはほぼ回収できるようになったので、残りは雑がみの回収に取り組んできたのが最近の10年と言えるでしょうか。

高津

日本の古紙は分別が綺麗で評価が高いと聞きました。
80%を超えるってすごいしくみですよね。

古紙回収

高津

ところで最近R社の方から「古紙が足りない」って伺ったんですけど、それはどういうことなんでしょう?中国が環境規制で古紙の輸入を全面禁止にしたので、余っているのかと思ったら。

センター

ええ、ダンボール箱の生産量は基本的に増えているし、海外からも12万トン輸入されています。段ボール箱はご存知のように資源化のサイクルも早く、使い終わるとすぐ古紙として循環の環に乗りますから、輸出された分があっても、十分国内で還流するぐらいはありそうなんですけどね。

高津

古紙のかわりに、日本で生産した段ボール原紙が中国に輸出されているとも聞きました。それで足りないんですか?

センター

それもあるでしょうね。
実は製紙メーカーにおける段ボール原紙の在庫って、過去最高になっているんですよ。ダンボール箱の需要が伸びていることを背景に、ダンボール原紙の生産量も増えているんですね。だから「古紙が足りない」のじゃないでしょうか。

高津

段ボール原紙の在庫が過去最高という記事、僕も新聞で読みました。

センター

業界的に適正在庫は40万t台って言われたのが、今や60万tになろうかというところです。

高津

箱の生産が追いついていないということでしょうか。

センター

どんどん回せ回せ、という声は聞こえてくるんですけどね。

紙管から紙管へ、再生の道を開くにはどうしたら・・

高津

パッケージなんかに使うコートボール紙は新聞とか雑誌古紙が原料なんですか?

センター

雑誌古紙や新聞を多く使ってますね。

高津

最近は新聞や雑誌も発行部数が減ってきているじゃないですか。そうするとコートボールの原料も足りなくなったりするんですよね、きっと。コートボールにダンボール古紙も使うという話を聞いたことがあって。

センター

コートボールなどいわゆる白板紙はパッケージに使うので厚みと強度が必要です。 5〜7層くらいあるのですが、上の層、白いほうは新聞紙、裏側はダンボール古紙を原料に使っているのもありますね。

高津

なるほど。資源の循環を考えた時に、コピー用紙からコピー用紙ができるなら、コピー紙の需要が下がったら、供給量も減るので困らない。でも、雑誌や新聞がお菓子の箱になる場合は、リサイクル需要と供給のバランスがややこしいですね。

センター

そうですね。
最初に高津さんが紙管古紙から再生紙管をつくることができないか、っておっしゃっていましたが、紙管原紙を作っているメーカーにとって、これも非常に厄介なんですよね。紙がなかなか溶けない。

高津

接着剤ですか?

センター

紙自体も。なので紙管原紙を作っている大手メーカーが引き取って原料化している事例はあります。パルパー(古紙をドロドロのパルプと水の状態に溶かす機械)が何台もあるようなR社のA工場のようなところです。

古紙離解設備、パルパー(『古紙ハンドブック2021』より)

古紙離解設備、パルパー(『古紙ハンドブック2021』より)

高津紙器の紙管を工場で破砕→製紙工場へ

高津

当社の紙管も、当社の工場で破砕したものを、紙管原紙を調達している製紙工場に送って、再生できるかどうか試してもらったんですが、できませんと言われまして。

破砕した紙管

破砕した紙管

センター

やはりそうですか。

高津

ええ、D製紙さんだったら受け入れていただけるみたいなんですが、紙管原紙ではなく、ダンボール原紙に再生するそうです。

ダンボールがリサイクル優等生で、何度も再生されるように、紙管もまた紙管にスムーズに再生できると良いのですけどね。今紙管の多くはフィルム工場に納品していて、使い終わりにはフィルムがひと巻きふた巻残っているので、回収できたとしても、そのままでは粉砕することができないんです。その点も何か工夫できることがないかと考えています。紙管はダンボール原紙に再生できる点で優れていますが、紙管から紙管に再生できれば、循環のサイクルがより明確になるからです。

高津代表

紙管のリユースはどうだろう?

センター

紙製品や印刷工場でも当然紙管を使っていますよね。強度のいらないものは古い紙管も使ったりしているようですが、フィルムを巻く紙管の場合はそういう使い方をしないのですか?

高津

食品に使うフィルムは衛生管理が厳しいので、ちょっとでも紙粉がつくだけで大変なことなんです。ですから基本的に新紙管しか使いません。この業界で再生紙管が使われない原因のひとつですね。今後は変わっていくのではないかと思いますが。

センター

そうでしょうね、なるほど。例えば新聞も重いので強度が必要で、新紙管しか使わないですね。

高津

そうなんですね。最近、地元の再生紙管屋さんから、新聞をはじめ印刷紙系が減っているので、再生紙管も減っていると聞きました。
リユースも大切ですが、市場に新紙管が出ていかないと再生紙管もできないので、当社では、当社の紙管古紙から、また再生紙管が作れないかと、可能性を模索しています。

今後は紙管業界で取り組んでいけたらいいですね。そうじゃないと、紙管は生き残れないのではないかと危惧しています。

ではもうひとつ、紙トレーに関してもお伺いしたいのですが・・・

(後編に続く)

後編を読む →

PROFILE

公益財団法人 古紙再生促進センター

http://www.prpc.or.jp別タブへのリンク

古紙の回収・利用の促進を図ることにより、生活環境の美化、紙類の安定的供給の確保、森林資源の愛護に資し、もってわが国経済の健全な発展と豊かな国民生活の維持に貢献することを目的として設立された公益法人。1974年創立。
現在、製紙メーカー44社(84事業所)、古紙直納問屋614社、その他3社の賛助会員で構成されています。

公益財団法人 古紙再生促進センター

今回の取材にあたっては、業務部の中田 広一さん、吉田 和正さん、甲斐 和生さんにご対応いただきました。
大変丁寧に解説いただき、感謝いたします。

高津社長

高津社長のサステナ見聞録

高津社長

私たち高津紙器では、地球環境問題/脱炭素社会への意識の高まりを背景に「プラスチックよりも紙」に追い風が吹いていることを認識していますが、 一方で手掛ける製品のほぼすべてが使い捨て用途であることから、紙だから「環境に良い」製品開発を行っていると言って良いものか、悩んでもいます。
そこで、この企画では自社の製品開発において改めて環境負荷を減らすためにできることは何か?を探し、環境意識の高いお客様に向けた提案力を高めることを目指して、 社長自らが見て聞いて、感じて学んだことを発信してゆきます。社員・スタッフはもちろんのこと、お取り引きのあるお客様にも広く共有させていただき、 一緒に取り組んでいけることを願っています。

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