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杉の紙からつくる「KINOF(木の布)」でひとと地域のつながりを織る
Interview

高津社長のサステナ見聞録

#05

合同会社すぎとやま

杉山久実さん×高津社長

杉の紙からつくる「KINOF(木の布)」でひとと地域のつながりを織る

森の中で伐り捨てられて、ころがっている木や、曲がって育って建材には使えない木などを使って、タオルなど毎日使うものを作ります。 手を拭いたり、洗い物に使ったり、日々の暮らしに入ってくる。それが良いと思っています。

Interview
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上勝町に学ぶシリーズ第3回は、合同会社すぎとやまの杉山久実さんに、スギの間伐材からつくる糸と布製品のブランドについてお話をうかがいます。間伐などの手入れが行き届かない人工林の問題は日本全国の問題。上勝のスギからつくるサステナブルでおしゃれな製品はどのようにして生まれ、育ってきたのでしょうか。

高津

こんにちは、お世話になります。改めてKINOFについて教えてもらいに、社長仲間をつれて来ました。

杉山さん

はい、どうぞよろしくお願いします。

高津

早速ですが、KINOFというのは、どんな事業ですか?

杉山さん

「KINOF」はその名の通り「木の布」のファブリックブランドです。上勝町のスギの間伐材から木の糸をつくり、日本各地の小さな企業と連携しながら丁寧に製品化しています。身近な暮らしの中に置いて欲しくて、主にフェイスタオル、ハンドタオルや、スポンジなど、水回りの日用品をつくっています。

高津

そもそも、このプロジェクトはどんなふうにはじまったのですか?

杉山さん

KINOFは(株)いろどりの新事業としてはじまりました。

高津

(株)いろどりさんは、「葉っぱビジネス」と呼ばれる「つまもの」の生産・販売で成功されて、全国的にも有名な会社ですよね。映画にもなった。

杉山さん

はい、そうです。以前、私は主人と徳島市内でフランス菓子店を営んでおりました。主人はパティシエで、私がお店を切り盛りしていたんです。それが縁とタイミングが合って、主人がカフェ・ポールスターのシェフを担当することになって、以来、徳島市内の家と上勝町を行き来をするようになりました。
(株)いろどりで人手が足りないと聞いて、それじゃぁ、とパートタイムで入ったら、私の年齢がみんなより高いせいか、何となく、パートタイムやのに偉そうな感じになってしまって(笑)
いろどりには、官公庁や大企業、小さな商店の方まで、いろいろなお客さんがおいでになるんですね。そのなかに、スギの木を糸にして布を織る会社の社長さんがいらしたんです。私はたまたまそこに居合わせて。
上勝町には間伐が必要なスギ林がたくさんあるし、木材として使いにくいような材も糸にするなら活用できる、それがお金にもなるというところは、葉っぱビジネスともつながるところがありました。私は布をつくることに興味があったし、当時は比較的自由な身分でしたから、ゼロから始めるにはちょうど良い立場にいて。それで地域おこし協力隊として事業化に向けた活動をさせてもらうことになったんです。いろどりの代表も応援してくれて、それが始まりでした。

高津

スギ林の間伐が遅れているというのは、日本中の森の問題ですよね。

杉山さん

ほんとうに。戦後の国策として全国でたくさん植えられたスギやヒノキの森は、輸入材との価格競争に負けて間伐などの手入れが遅れてしまったそうです。しかも、国などの補助金で間伐できたとしても、搬出経費のほうが販売価格より高くなる場合も多くて、上勝町の山にも腐るのを待つばかりの間伐材が寝転がっていたりします。もったいないですよね。

KINOFはじまる

杉山さん

木の布と書いて「KINOF(キノフ)」という名前に決めました。「上勝ファブリック」と入っていているのは、ローカルファブリックというようなイメージです。
KINOFは、山の資源を使って作る身近な日用品ですが、上勝らしさや、ゼロ・ウェイストな暮らしを通してできることを考えよう、というテーマも大切にしています。

高津

地元の間伐材から日用品をつくる、いいですね。どういう工程で布になるんですか?

杉山さん

まず町内のスギの木を細かくして製紙用のチップにします。四国内でチップ化できるといいんですけど、まだ見つかっていないので、四国外の工場に送っていますが、いつか地域内でできるといいなと思っています。
チップ化されたスギを分解させてセルロースを抽出、パルプ化し、麻のセルロースと合わせて薄い紙をつくります。そしたら、それをスリット加工という、細いテープ状にしてもらった紙を撚って糸にするんですね。スリット加工された紙がこれです。

KINOFの糸の写真

高津

糸をよるためのスリットは細いほうがいいんですか?

杉山さん

何を織るかによります。ゴワゴワしたものなら太いのでもいいけど、より細い糸がよれると、いろいろな生地を織ることができて、将来的にも広がるような気がします。

高津

なるほど。

杉山さん

KINOFは小さな工場をリレーして作っていくので時間がかかります。まず、上勝のスギ材をチップにする工場に入れて、次にセルロースの工場、その次は紙の工場に行き、スリット加工の工場を経て糸を撚る工場、糸を撚る工場からやっと織物の工場に行って、という流れになります。そこまでで6カ月かかります。
織物工場では、たとえば50メートルの織物を織るのに、8時間から12時間もかかるそうです。その間、糸が切れたらすぐ結び直す必要があって、それはもう、すごく手間ひまがかかっているというか。

高津

6ヶ月ですか!

杉山さん

はい。いろんな人の手を使って時間をかけて出来上がっているところは、山をつくるのとよく似ているように思うんです。途中の工程をいい加減にすると最後に織物ができないらしいです。糸はできても、織物になったときにパチパチ切れてしまうとか。ひとつひとつ、時間をかけて、手間をかけて、人が気持ちを込めてつくるというところが似ているんやなと、そう思うところがあります。

高津

そうかもしれませんね。
これは漂白せずに木の色そのままですか?

杉山さん

はい、木の色そのままです。だから地域によってちょっとだけ赤かったり、ちょっとだけ白かったりしますよ。スギの真ん中の芯の赤みが多いかどうかと、外側の白太がどれだけ白いか、もちろんブレンドはしますが、材を入れてくれる地域によって、微妙に違います。

高津

漂白はしないんですか?

杉山さん

必要ないと思うんですよね。自然のままの上に色をのせても、独得のいい感じの色が出るので、わざわざ白くする必要はないんです。
紙なので、漂白すると割と弱くなるということもあって、「KINOF」としては、もとの色はそのままです。漂白すると、そのための水も液剤も必要になりますよね。元々そんなに安くない糸なので、それをするとまた高くなってしまいますしね。商品の用途にもよるのでしょうが、一度白くしないと買ってもらえない、というのは生産者の思い込みなんじゃないかと思っています。

高津

KINOFはスギだけで作れるんですか?

杉山さん

いえ、スギの木は繊維が短いので、紙にはなるけれども、糸にすると切れやすいんです。それで今は繊維の長い麻のセルロースを混ぜています。麻は輸入に頼ってしまうので、いつかスギだけで作れるようになったらええなと思います。織物にするとき、スギの糸は横糸にしか使えなくて、縦糸はコットンを使っていますが、これが縦糸にも使えるようになったら、森の中で伐り捨てられているスギをもっとたくさん使えるようになります。

※その後、縦糸もスギの糸で織ることのできる会社が見つかり、新しい布が生まれています。現在新商品を構想中とのこと(2023年2月)

布製品にすることの良さ

杉山さん

もともと立派な木、きれいに育った木、手入れがされた森の木は、テーブルにしたり、家を建てるのに使ったりできるけど、私たちは、立派じゃない木を使って、布にします。森の中で伐り捨てられて、ころがっている木や、曲がって育って建材には使えない木などを使って、 製紙用のチップにして、紙にして、糸を撚って、ハンドタオルやボディタオルなど毎日使うものを作ります。 そうしてできた布が手を拭いたり、汚れを拭き取ったりするのに使われて、日々の暮らしに入ってくる。それが良いと思っています。

高津

布としての特徴はどんなところですか?

杉山さん

まず、スギの木を使っているので、軽いです。それとスギには元々抗菌性があるので、KINOFにも抗菌作用があります。 抗菌活性値が1.1以上あれば、「抗菌できています」と言えるそうですが、検査してもらったら抗菌活性値が5.9もありました。10回洗濯した後も3.6(*)というのはかなり良いですよね。 乾きやすさと抗菌力の両方があるので、お風呂のボディタオルをつくってます。私は2年間使っていますけど、カビません。ヘチマとか麻とかコットンは、プツプツとカビが出るんですけど、出たことがない。数字でもやけど、実感で証明できています。

*(一財)メンケン品質検査協会が実施する抗菌性試験/JIS L 1902の結果より

高津

気持ちよさそう。

杉山さん

あと紙の糸なのでケバが立ちにくい。サラっとしていて、使うほどに柔らかく、手に馴染んでいく感じがあります。
それから生分解性が高いのも大事なポイントですね。KINOFのハンドタオルを土のプランターに埋めてみたら、1カ月くらいでボロッとなってきました。もちろん、綿でも麻でも土にはなりやすいですけど、スピード感がまったく違います。天然の木の紙からできた糸だから、紙の部分からどんどん先に分解されていくイメージです。

高津

はやく土に還る、それはサステナブルですね。 たしかそのコートもKINOFでしたよね。

KINOFの糸の写真

杉山さん

そうです。これ、ボタンつけてないんですよ。捨てるときも、まるごと土に還すことができるコートです。私が着ているのを見て売ってくださいと言われることもあるんですが、今のところ洋服をつくるのはあまりイメージしていなくて。在庫を抱えるのも大変やし、お客さんが上勝町に服を買いに来てくれるかというとそれは難しい。関心を持ってくれる方の要望に応えたい想いはありますが、KINOFとしては水回りの商品を中心につくっています。山あいにある上勝は自然が豊かで水もきれいだから、川の水を使って顔を洗ったり、ご飯を作ったりします。暮らしが水と近いところにある、というのも上勝「らしさ」のひとつなんです。

高津

KINOFは東京にも進出されているとか。

杉山さん

目黒の大きなコーヒーチェーンに併設されたショップに、全国各地の巧の技シリーズみたいな企画コーナーがありまして、そこに藍染したハンドタオルを置いてくれています。KINOFを応援してくださる方が企画を取りまとめてくれて。

高津

すごい。

杉山さん

新しいホテルで使うパジャマやシーツにどうか、というような話や、小さな商店の方からもいろいろなお話をいただいたりします。あと長野県の根羽村森林組合さんが「KINOF」を売り始めてくれました。まったく同じタオルを織って、パッケージも同じやけど、上勝ファブリックではなくて「根羽ファブリック」にしてもらっています。森林組合さんは大きなものを売るから、雑貨のような小さなものを売ることに慣れていないので、私たちがデザインを提供したり指導させてもらったりしています。

高津

広がっていますね。

木糸「KEETO」をリリース

「KEETO」

杉山さん

KINOFのラインナップを展示会に出してみると、木糸にも関心があるお客さんが全国にいらっしゃることがわかりました。「糸はないですか」「糸も触らせてください」と言う方が結構おいでになって。糸の段階、原料として販売すれば、布だけでなくて紐だったり、もっと広がるんじゃないかと思ったんですね。
そうなったら、上勝町だけでは難しいので、日本全国・各地のスギで糸ができたらいいなと、2021年に国産天然繊維ブランド「KEETO(木糸)」をリリースしました。
2020年に立ち上げていた合同会社「すぎとやま」からプレスリリースを出してみたところ、新聞やファッション業界を含む多くのメディアが取り上げてくれて、確実に認知が広がった実感があります。

スギは学名をCryptomeria japonica(クリプトメリア ヤポニカ)といい、「日本の隠れた財産」という意味があるのをご存知でしょうか?昔の人がそんなふうに名付けた、ということは、何か素晴らしいコトが起こったとか、素晴らしいモノができたからじゃないかなと想像してしまうんです。
そんな日本のスギから、布だけではなくて組紐とかタッセルとか、アクセサリーにしたり、ソックスを編んだり、素敵なものがどんどん生まれたら良い。糸からなら、そうした広がりを期待できるんです。ワクワクしますね。

杉山さん

それから、もうひとつ。日本の食料自給率が38%(カロリーベース)なのは知られていますが、ほぼ全ての衣類も輸入に頼っていることは、あまりニュースになりません。自給率はわずか2%ほどだそうです。国内で生産されている糸は、綿と合成繊維がほんの少し。衣食住の地産地消をしたくても、「衣」の原料はほとんどないんですよね。だからいまこそ「日本の隠された財産」を使って、みんなで国産の自然の糸を作っていけたらいいと思うんです。

高津

事業を通じて大切にしていることは何ですか?

杉山さん

大切なんは「つくる人・売る人・使う人の気持ちがつながる」こと。もともとケーキ屋で、対面で、食べる人とか買ってくれる人とリアルに話をするのがあたりまえの仕事だったので、それは大事にしてます。

だから製作工程でも、できるだけ値切るのはやめようと思っていて。小さい所がつながっているので、ローコストでつくるのはとても難しいんです。みんなそれぞれ時間をかけてやってくれているし、面倒な作業もしてくれてるのがわかるから。
これまで数年間やってみて、私はたぶん大きな商売に興味がないんやなというのがわかってきました。こちらで、何か不手際や行き届かないことがあった時、直接謝りに行けるようなお客さんとの距離感が好きなんです。
全国に知られてきて、少し大きくなったように見えるブランドやけど、大切にしているのはそんなことです。

高津

ありがとうございました。

お話を伺った杉山さん

PROFILE

杉山 久実(すぎやま・くみ)さん
杉山 久実(すぎやま・くみ)さん

杉山 久実(すぎやま・くみ)さん

徳島県出身、上勝町在住。徳島市内で23年間フランス菓子製造販売店をパティシエの夫と営む。材料の流通や消費の動向に疑問を感じるようになっていた頃、夫に上勝町cafe Pole starのシェフとして声がかかり長年のご縁とタイミングに運命を感じて意味ある人生を送るために上勝町へ。徳島市内との2拠点の生活が始まった。2017年に上勝町地域おこし協力隊として地元の杉の木を使った布や布製品を企画販売するファブリックブランドKINOFを2018年秋に(株)いろどりで立ち上げた。2020年4月合同会社すぎとやまを設立し、KINOFの企画運営に携わりつつ日本国内の木を使った国産天然繊維ブランド「KEETO」事業を開始。上勝町内の川沿いにアトリエを持ちKEETOラボ・ワークショップ・カフェなど人と人がふれあう新しいスタイル、リアルな現場を提供していきたい、60歳を迎え向かうところ怖いものなしと奮闘中。

高津社長

高津社長のサステナ見聞録

高津社長

私たち高津紙器では、地球環境問題/脱炭素社会への意識の高まりを背景に「プラスチックよりも紙」に追い風が吹いていることを認識していますが、 一方で手掛ける製品のほぼすべてが使い捨て用途であることから、紙だから「環境に良い」製品開発を行っていると言って良いものか、悩んでもいます。
そこで、この企画では自社の製品開発において改めて環境負荷を減らすためにできることは何か?を探し、環境意識の高いお客様に向けた提案力を高めることを目指して、 社長自らが見て聞いて、感じて学んだことを発信してゆきます。社員・スタッフはもちろんのこと、お取り引きのあるお客様にも広く共有させていただき、 一緒に取り組んでいけることを願っています。

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