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古紙の発生地にはどこへでも行く。多様な古紙をリサイクル・ルートに乗せて、リサイクルパルプの新たな価値を創造する日誠産業
Interview

高津社長のサステナ見聞録

#07(後編)

株式会社 日誠産業

島 大樹さん × 高津俊一郎

古紙の発生地にはどこへでも行く。多様な古紙をリサイクル・ルートに乗せて、リサイクルパルプの新たな価値を創造する日誠産業

サステナ見聞録第7回は、これまでの取材でもその技術力の高さで、たびたびお名前が登場していた、リサイクルパルプの製造販売を手掛ける、株式会社 日誠産業の島大樹専務をお迎えして、お話をうかがいました。後編をおとどけします。

Interview
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禁忌品と呼ばれる古紙をリサイクルパルプ化する

高津

考えてみると、ラミネート加工がされている牛乳パックは、本来は禁忌品にあたりますよね。集団回収の仕組みと、リサイクル技術があって再生できる。

島さん

ええ。従来より、飲料容器のようにラミネート加工がされている古紙は禁忌品とされていますが、当社ではそれらのパルプ化をメイン事業にしています。
基本的に、本当に溶けない紙以外は溶かせるんですが、問題になるのは環境負荷です。当社の排水処理施設は、微生物による活性汚泥方式で行いますが、瀬戸内地方の処理基準は非常に厳しいです。古紙を溶かす際に出る排水の汚れを処理できない、会社としてコンプライアンスを守れないと判断したものは、お断りさせていただいています。

それ以外は、基本的に1回受けてみて、どのような案件に育つかを吟味しながら進めるというのが、当社のスタイルです。

高津

なるほど。さきほど各地から回収された牛乳パックを見せていただきましたが、実際ラミネート印刷にもいろいろな種類がありました。他に、御社でリサイクルを可能にした禁忌品はありますか?

工場見学

島さん

マラソン大会など、徳島県で開催されるいろいろなお祭りで回収できる紙コップを当社でリサイクルしています。こうした行事は行政さんが運営しているケースが多いので、次年度に使える紙製品に再生させませんかという提案をします。前年使ったものが原料になり、翌年新しい紙製品になって使える。ぐるりと回って、リ・サイクルです。弊社では、単純に原料の回収だけでなく、パルプ化を経て、再び新しい紙製品として生まれ変わらせるところまで、できるだけ循環が見えるようなリサイクルを提案するように心掛けています。

高津

なるほど。

島さん

それから、直近で始まったものに、シール台紙があります。2023年の5月にJ-ECOL(一般社団法人 ラベル循環協会)という組織が立ち上がり、シール台紙(剥離紙)のリサイクル推進が始まりました。これも従来では禁忌品とされてきたものですが、当社はJ-ECOLを通じて紹介いただいた協会会員のメーカーさんの案件をひとつひとつ伺って、リサイクル・ルートに乗せるという作業を行っているところです。

高津

シールって、使う部分より捨てる部分が多いじゃないですか。

島さん

多いです。国内における剥離紙は約11万トン/年流通していて、その大半が有効利用されていないそうです。

※参考:ラベル循環協会ホームページ内、「循環型社会を作るために「社会課題」」欄より「使用済み牛乳カートンは、18.7万トン/年(2019) 」
出典:ラベル新聞2021 全国牛乳容器環境協議会2021

高津

今までシール台紙がリサイクルできなかった理由は?

島さん

一つは離型性を上げる為にシリコンが塗布されているからですね。それと、たまに残っているシール自体も問題です。粘着物質があるものは、禁忌品です。シール部分も溶かしてくださいというお願いをされたら、どこの業者も断ると思います。裏面に付いている粘着成分が非常にやっかいです。シリコンや粘着剤が混ざった状態で再生紙にすると、紙を染めた時に色むらが出たり、そもそも紙としてあまり歩留まらなかったりということがあります。

高津

それでも御社ではリサイクルできるんですか?

島さん

できる限りシールが残らないように取ってくださいというお願いをした上で、厚物のハンドタオルなどにリサイクルしています。粘着物質の混入率は正確には把握していませんが、シール台紙を原料として使うことについては、メーカーさんに了解をいただき、一緒に完成品質を確認しながら進めています。またJ-ECOLでは配合比率を低くして品質影響が起きないような使い方で段ボールやトイレットロールの原料に使えることも確認しています。

リサイクルパルプが再び商品になる、リサイクルの出口を見極める

高津

さきほど、基本的にまずは1回やってみましょうというスタンスだとおっしゃっていましたが、製紙会社の巨大な機械を使って、駄目だったときには損害が桁違いじゃないですか。そのあたりのご苦労はありませんか

島さん

さっきパルパーを見てもらったと思いますが、あれのミニパルパーというのを購入しまして。製紙会社でトラブルが起こらないように、ミニパルパーで事前に検証できるようにしています。通常のパルパーだと2トンとか3トンとかのレベルですけど、こっちは5キロ、10キロでテストすることができます。

高津

テストしてみてこれは大変だった!というのはありますか。

島さん

例えば壁紙です。クロスメーカーさんからの依頼があって、クロスの裏側にある裏打ちの紙を溶かしてくれというものですが、紙というよりほぼ塩ビなんですよ。塩ビ成分だけ上手く分離できても、残渣としては特殊な焼却炉でなければ燃やせないし、紙成分もあまりにも粉々になってしまって、これは無理だなと断念しました。

マカオのトランプもそうですけど、パルプ化したものが再び商品に還元されていくためには、どんな出口を用意するのかということが大切で、それがなければプロジェクトを動かすのは難しくなります。そうした意味で、その壁紙のケースにはリサイクルの出口が見えなかったんですね。

デジタル化とともに縮小する紙の需要。だからこそ

高津

近年リサイクル市場そのものは拡大していますが、紙の需要は、リーマンショックをピークに減り続けていますよね。リサイクルにかかわる紙市場についてはどうご覧になっていますか?

島さん

基本的には減っていっています。

高津

入ってくる古紙が減るから、再生紙の生産も減るという感じですか。

島さん

そうですね。紙業界で安定的に出ていっているリサイクル紙製品は、段ボールと家庭紙、この2つですね。あとは基本的に減ってゆくという状況ですよね。なんとかジリ貧でもっているのが、飲料系の紙容器じゃないかな。

高津

パッケージ類ですね。

酒類飲料のパッケージ

酒類飲料のパッケージ

島さん

そうです。板紙と家庭紙以外は、基本的にはなくなるか、極めて少なくなるかじゃないでしょうか。

高津

牛乳パックも減っているんですか。

島さん

牛乳パックもじりじり減っています。回収率も下がっていますし。一時期、50パーセントに迫る勢いだったのが、直近で40パーセントを切ってしまいました。

引用:全国牛乳容器環境協議会「紙パック回収率|紙パック回収率の推移」

引用:全国牛乳容器環境協議会「紙パック回収率|紙パック回収率の推移」2022年度の紙パック回収率(損紙・古紙を含む)は38.7%

高津

それは核家族化などが原因ですか?

島さん

ここ3年のコロナの影響が大きかったと思います。スーパーの回収ボックスが、使えなくなったりしましたから。牛乳パックの回収ルートとしては、地域の集団回収で集められるものが多いのですけど、「人は集まるな」という状況下でそういう回収スキームが一旦崩壊してしまった地域が結構ありました。

高津

紙のリサイクル市場は縮小しているということですが、御社の事業としては拡大されていらっしゃいますよね?

島さん

ビジネスとして、他社とシェアの取り合いは当然あります。そこは拡大すべく努力をしながら、当社では循環型リサイクルの案件を、1つでも多く構築するということに注力していて、そのへんが結果につながっているのではないでしょうか。

高津

市場が縮小するなかで、御社は挑戦を続けて結果を出して来られた。

島さん

学乳パックの回収など、掘り起こせそうなところは、必ず動きます。ビジネスとして勝負しなければいけないところ愚直にやっていくしかないかなと。リサイクルに回されずに燃やされている古紙がまだまだあるので、そこをいかに掘り起こすかというのが勝負のひとつでしょうね。

新たな回収のスキームをどう構築するか

島さん

高津紙器さんはパッケージを結構生産されていると思いますが、可燃ごみとして捨てられてしまうケースはだまだまだあるんじゃないですか?

高津

ええ。当社の製品にも、リサイクルされてないものがまだあります。

島さん

やはり多様なステークホルダーと協力体制をつくり、いかに回収スキームを構築するか、というところが重要です。先程のシールのように、業界を挙げて課題に取り組もうとするところもできていますが、リサイクラーを集めて回収する方法なども構築していかないといけないんじゃないかなと思います。リサイクルというのは一周回ってリサイクルですよね。各所のニーズに答えながらその環をいかに多くつくれるか。今後の重要な動きではないかなと思います。

リサイクルパルプを利用して作られた製品

リサイクルパルプを利用して作られた製品

高津

3年ほど前に上勝町に行かせていただいたた時に、紙は9種類に分別されているのを拝見しました。ほかの所ではなかなか難しいと思ったのですが・・・

上勝町資源分別ガイドブック

令和2年度版 上勝町資源分別ガイドブックより

http://www.kamikatsu.jp/docs/2017040700010/file_contents/R2betsugideobook.pdf

島さん

そうですね。たとえば、内側にアルミが貼ってある飲料パックですが、「牛乳が入っているものはリサイクルできて、コーヒーが入っているものはリサイクルできないの?」と言う人がいます。そこをいかにうまく説明してあげるか。分けて集めれば、リサイクルしやすくなることを、皆さんがわかるように工夫するのも、僕らの仕事じゃないかなと思っています。それはリサイクラーの義務じゃないかなと。

高津

具体的にはどうしたらいいと思われますか。今でも紙リサイクルのマークはたくさんの種類があって、これより増やしていくことはできないですよね、多分。

島さん

そうですね。それ以上増やせないとは思います。

高津

増やしてもいいですけど、多分定着しない。

島さん

最近、ローソンさんと取り組み始めたことで、一番身近な所に、とにかくこれだけ集めてくれというボックスをおいて、それを1個ずつ増やしていくという方法があります。

高津

それは、そのものだけを入れてくれということですか。

島さん

そうです。それなら覚えてもらえます。
コロナ前、ある大きなテーマパークのごみ箱を調査させてもらったことがあります。パーク側は、お客さんの手間をかけさせないようにと、一種類のゴミ箱だけしか置かないのに対して、お客さんたちは「このプラはどこに捨てればいいのかしら?」と迷っていました。分別する習慣があるということです。紙とプラ、汚れた紙と、汚れてない紙、などを分別回収してもらうだけでも、全然違います。一つの例ですが、まだまだ掘り起こせる古紙はたくさんあるのだと思います。

高津

回収のしくみづくりにも関わっていかれるんですね。

島さん

ええ。これまでも「回収方法を考えましょう」という提案はいろいろな企業さんに向けて行ってきました。コロナの流行後は、回収業者の感染リスクも考えなければならなくなって、難しさが増えましたけれど。
 あとは、使い捨て食品容器を回収する仕組みの中に、洗浄屋さんみたいなものをつくれると良いですね。一旦そこに持ち込んで、水洗いしたものがリサイクルに回るというのは、かなりリサイクル率を上げる方向に進むと思います。今、ないですよね。

高津

ないですね。
当社は冷凍食品の紙皿を作っているんですが、内側にアクリル樹脂を塗布してあり、食べ物が当たるのでリサイクルには回らず、燃えるゴミになります。僕らの競合になるプラスチック容器はスーパーで結構回収されていますよね。全てではないにせよ、消費者も洗って出してくれているようだし、紙容器にも可能性があるんじゃないかと思うんです。

高津紙器の紙トレー用紙

高津紙器の紙トレー用紙

島さん

ある音楽祭のケータリングの紙皿を、フィルム貼りにしたものにする、という取り組みに少し参加しているのですが、あれはどうですか?
フィルムを取ってしまえば、品質の高い高級板紙で、古紙として高く売れます。洗う手間もないし、パッと取ったフィルムについては、容器リサイクル法のプラスチックの回収ルートに乗るんだと思います。アクリル樹脂を塗るよりも、フィルムをパッと取れる仕組みが、製紙メーカーにもリサイクラーにとっても良いと思いました。

高津

良いんですが、あれが普及しないのは、コストが高いからなんです。できるだけ安い包装容器が求められているなかで、例えば一枚3円くらいの商品が、フィルムを貼ることで6円とか8円になってしまう。

島さん

紙を二重にするとか、どうですか。フィルムの代わりに薄い紙を使い、汚れた薄い紙だけを可燃ごみにする。そもそもフィルムは石油製品ですから、すべて紙にしておけば、環境に配慮した商品としては良いんじゃないですか。

高津

あ、そういえばドイツの展示会で見かけました。なるほどね。ちなみにフィルムを貼った容器ですが、剥がした後の紙はどう回収されるとリサイクルにまわるのでしょう?

島さん

雑紙でしょうね。

高津

でも、これを雑紙に入れようという教育もしないと、消費者は雑紙として出さないですよね。

島さん

大阪では、ゴミの回収量に対して焼却炉が足りず、ごみを減らさなきゃいけないということで、雑紙への分別を積極的に働きかけています。これは牛乳パックと同等くらい紙としての品質が高いですからね。

島大樹さん

高津

そうですよね。本当は弊社の商品も、今の皆さんの生活習慣の中にある、段ボールか新聞紙か牛乳パックのどれかに分別されてほしい。牛乳パックのマークがついていれば、洗ってリサイクルボックスに入れてもらえますから。

島さん

牛乳パックと同じ素材でつくってしまって、牛乳パックと言い張るのは、どうですかね。両面ラミネートなので、コストは高くなってしまうけれど。

高津

原紙が牛乳パックとおなじだとして、ラミネートの代わりにアクリル系を塗布するのはだめですか?

島さん

紙を溶かすときに、排水にアクリル系の樹脂がはいってしまうので、環境負荷が高くなります。それならフィルムだけのほうが絶対にいいです。

紙を溶かす工程の様子

紙を溶かす工程の様子

高津

なるほど、ありがとうございます。ここではお話できないこともあるので、後で相談をさせてください。
最後に、今後のリサイクル市場についてひとこといただけますか?

島さん

回収可能な古紙の掘り起こしと、私たちが、いかに柔軟で多様な仕組みをステークホルダーに提案できるか。ここに尽きると思います。紙は黙っていても減っていきます。デジタル化のほうが早い。業界では、新聞より先に雑誌がなくなるんじゃないかと言われています。

高津

減りましたね。その中で、食品向けの紙は今のところ好調です。なのにリサイクルできていないというのが、問題です。

島さん

食にまつわるような紙は減りにくい気はします。これから「プラに変えます」というのも、もはやない気がしますし。

高津

ただ怖いのは、「紙トレイは不要」、「そもそも自宅でお皿を使えばいい」みたいな方向も想像できてしまうこと。ドイツでは、利用者が希望すれば、利用者が持参した持ち帰り容器に入れなければならない、という法律ができるそうです。

島さん

上勝町で実践している「量り売り」ですよね。今までにない、新しい仕組みを考えていくということと、同じことを考えている人で集まって協業していくことが、ますます大切になってきます。それは、今後のうちの目標でもありますし、業界としてもやっていかないといけないところじゃないかなと思っています。

高津

弊社の製品も循環させることができるよう、お知恵を貸していただけたら。

島さん

ぜひ一緒にやりましょう。

高津

よろしくお願いします。本日はありがとうございました。

今回お話を伺った島さんと

今回お話を伺った島さんと

PROFILE

島 大樹(しま・ひろき)さん
島 大樹(しま・ひろき)さん

島 大樹(しま・ひろき)さん

株式会社日誠産業 専務取締役。
平成11年に入社。原料部を経て、原材料部、開発営業部、営業部の各部長職を務めた後、令和4年6月より現職に就任。
令和4年7月からは、上勝町に設立した関連会社「きせきれい株式会社」の取締役も務める。徳島県牟岐町出身、1981年生まれ。

高津社長

高津社長のサステナ見聞録

高津社長

私たち高津紙器では、地球環境問題/脱炭素社会への意識の高まりを背景に「プラスチックよりも紙」に追い風が吹いていることを認識していますが、 一方で手掛ける製品のほぼすべてが使い捨て用途であることから、紙だから「環境に良い」製品開発を行っていると言って良いものか、悩んでもいます。
そこで、この企画では自社の製品開発において改めて環境負荷を減らすためにできることは何か?を探し、環境意識の高いお客様に向けた提案力を高めることを目指して、 社長自らが見て聞いて、感じて学んだことを発信してゆきます。社員・スタッフはもちろんのこと、お取り引きのあるお客様にも広く共有させていただき、 一緒に取り組んでいけることを願っています。

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