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ANAグループの新ブランド「AirJapan」の機内食に、高津紙器の紙容器が採用された理由
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ファクトリートーク

#09

ANAグループの新ブランド「AirJapan」の機内食に、高津紙器の紙容器が採用された理由
-株式会社エアージャパン・客室部乗務課マネージャー 青池薫、高津紙器株式会社・代表取締役社長 高津俊一郎-

ANAホールディングス(HD)の新航空ブランド「AirJapan」が2024年2月、成田―バンコク(タイ)線に初就航、また、シンガポールや韓国(ソウル)にも順次就航しました。―増加するインバウンド需要を取り込み、今後もアジア・オセアニアといった成長市場を開拓していくことが見込まれています。 そうした中でも力を入れているものの一つが“機内食”。訪日客をメインターゲットとして「日本食」をテーマに開発された機内食の容器、実は高津紙器が手がけています。機内食や容器がどうやって出来上がったか、経緯や器に込めた思いについて話を聞きました。

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「空から日本の美味しさを発信」を機内食のコンセプトに掲げ、現役の客室乗務員8名が主体となってメニューを企画・開発したAirJapan。日本の食の魅力・豊かさ、そしておいしさを知ってほしいという思いから、事前購入メニューとして親子丼やチキン南蛮丼、寿司やおむすび弁当などのほか、洋食、ヴィーガン対応、宗教に配慮したお食事、軽食をそろえた幅広いラインナップです。高津紙器が手がけたのは、日本食を際立たせる“黒”の紙容器。AirJapanが機内食の容器に何を求めたのか、詳細をお尋ねしました。

リミット直前まで理想の紙容器を探していた

AirJapanの飛行機

ANAグループの新エアライン「AirJapan」。バンコク韓国やシンガポールを結ぶ中距離路線を展開し、インバウンドを視野に入れ東南アジアからの観光客を主なターゲットとしている。価格はフルサービスよりも抑えながら、日本品質、高品質なサービスを強みとした“ブランド”。

青池さん

株式会社エアージャパンは『ANA』ブランドのアジア路線の一部を運航するエアラインとして拡大を続けてきましたが、2024年2月、これまでの『ANAブランド』の運航の経験とANAグループが持つ知見を基に、ANAグループの第3のブランド『AirJapan』を立ち上げ、運航を開始致しました。『AirJapan』ブランドは、『ANA』ブランドと同じ安全・運航基準で運航する一方で、サービスについては、お客様が本当に必要とされる価値を見つめ直し、シンプルにお届けすることを基本に、日本らしい発想と品質をご提供し、FSC(フルサービスキャリア)でもLCCでもない新しい空の旅をご提案しています。
海外の強力な競合他社もいる中、運航品質やオペレーションの向上に力を入れ、またSNSを活用するなどして認知度を向上させています。その結果、搭乗率が大きく回復し、皆さんに広く知られるようになりました。タイ人向けのフェイスブックのフォロワーは109万人に及びましたね。
AirJapanでは機内食開発のコンセプトの一つに「環境に、私たちにやさしい、Thoughtful」を掲げていて、フローズンミールやレトルトの活用によりフードロスを極小化。環境に配慮した機用品の選定をしています。ブランドコンセプトである「Fly Thoughtful」は、環境にもTthoughtfulでありたいという思いから、“脱プラスチック”の容器を使用することは決まっていました。

高津

CO2排出量削減のほか、プラスチック量や食品廃棄量の削減など、航空業界では各社がSDGsに積極的に取り組んでいる印象があります。

機内食の一例

バラエティーに富んだAirJapanの機内食。左手前は[ふわとろ卵の炭火焼き親子丼](1,800円)、右手前は[寿司ものがたり](2,000円)、左奥は[チキン南蛮丼 ~あけぼのタルタル添え~](1,800円)、右奥は[チキンと紅芯大根の野菜たっぷりサラダ ~バルサミコドレッシング~](1,600円)。黒い紙容器が料理をいっそう美しく見せる。

青池さん

私たちの機内食のコンセプトとして、容器、カトラリーに対しても“環境にやさしいもの”を選んでいこうという大方針がありました。早い段階から紙製の容器で機内食を用意したい、という思いが強くありました。
そこから、どんな商品があるだろうと探しました。しかし、航空機内の特別な使用基準をクリアした仕様で、そのうえ「日本のおいしさや文化」を感じられるメニューを一層引き立てる器、見た目の美しさにこだわる器というのが、既存商品では見つからなかったんです。
紙製で航空機内の特別な使用基準を満たす器というのは、実は、本当に限られています。既存商品というと、例えばバガス素材の容器とか、四角い紙製BOX型容器とか。どれも今回私たちが求める理想とする容器ではありませんでした。

高津

それらはザ・駅弁みたいな普通のお弁当箱のような感じですか?

青池さん

そうですね。既存商品では難しいという中で、ずーっと探していたという状況でした。でも、刻々と就航までの期限が近づいていますので、どうしたらいいんだろうという状況の中で、高津紙器さんと巡り会えたという感じです(笑)。

高津

『ファベックス2023』の展示会で、“偶然”出会ったのでしたよね。
ANAグループとは以前から取引があったのに……。

青池さん

はい。機内食開発のプロジェクトが始まったのが2022年の10月、2023年5月の展示会で出会うまで、半年ぐらい探してましたね。もうあきらめようか、というところまできていたところでした。
我々が提供したい機内食がおさまる量だとか、見た目など、他の容器は検証するまでに至らなかったですね。

高津

それは簡単にいうと、ちょっとチープだった、ということですか。見た目が。

青池さん

そうですね。見た目が、やはりどうしても納得がいかなかったということと、見た目が良くても機内の特別な基準をクリアできなかった、ということですね。
容器が決まらないと、いかに機内食のメニューが決まっていてもそこから先が進まないんですね。タイムリミットを考えても、あそこで理想の紙容器に出会わなかったらすべての工程が遅れていた。もしかしたらプレスリリースにも間に合わなかったかもしれないですね。奇跡的なタイミングでした。

高津

もったいないお言葉をありがとうございます!

スチームに耐えつつ、中身が温まる紙容器の開発

高津

展示会でAirJapanさんに出会い、弊社の営業がえらいテンション上がってるなと思ってて、その次の週ぐらいにはもう話が進んでいて。「容器をスチームコンベクションにかけるらしいよ」と聞いて。スチームコンベクションという言葉を聞くのは初めてでしたし、それから何度も伺わせていただいて。
容器は見た目ももちろん大事ですが、スチームコンベクションに容器ごとかけるので、耐熱・耐水に加えて中身が温まるかどうか。容器は耐えられるけど、中身が冷たいままだと困りますから。
当初、耐久性は問題なかったのですが、それでうまくいくかなと思いきや、運用面で制限時間内に中身が目的の温度になりにくいということがあって。それをどうやって克服するか。強度性をもちながら、中身が温まるように改造しなければいけないという課題が生じました。

親子丼内部の温度測定


実際に機内で使われるスチームコンベクションでの検証

2024年12月に行われたスチームコンベクションによるヒーティング検証の様子。飛行機に搭載されているスチームコンベクションを使い、一定時間内に一定温度に達するか、検証を繰り返した。検証は全6、7回行われていて、開発までは耐久性、耐熱性、耐水性、大きさ、運用面など、さまざまな検証を行った。

青池さん

高津紙器さんに来ていただいて、ナノックスさんで実際に使用するオープンでの実地試験を数回実施しましたね。その前にもいろいろな改良をしていただいていて、全体を通したら7、8回は来ていただいたのかと。

高津

容器の天面が波打った、ということもありましたよね。中身が温まらないということもあり、どういう加工にしようかという話をして、紙自体も変えましたね。最初はもっと真っ黒な紙を使っていたんです、確か。
こちらからは白ベースにどんなロゴを入たり、ブランドカラーにしますかと、いくつか提案したように思うのですが、一貫して黒にこだわっておられましたよね。

青池さん

機内食を美しくみせるということで黒を採用したいなと。他の色の選択肢はなかったですね。

当時を振り返る青池さんと高津

高級感がありながら、料理をより華やかに、おいしそうに見せる黒い容器にこだわったと話す青池さん(右)。

高津

実地試験を繰り返すことにより、最初の容器からだいぶ変わりましたね、原紙、構成も変えましたし、形状も全部変わりました。最後の詰めがすごく難しかったと思います。
御社の皆様のおかげで完成したと思います。当社もとても勉強になりました。

客室乗務員の視点から、機内食の紙容器に求める条件

青池さん

私たち客室乗務員は「AirJapan」と「ANA」二つのブランドの二刀流として、フルサービスキャリアのANAで培った経験を生かし、AirJapanの両ブランドにおいてきめ細やかに気配りすることを心がけています。機内食はとても好評をいただいていて。うれしい悲鳴ではあるんですが、予想を超えるオーダー数が入ったりして、急遽容器が足りなくなることがありました。そういうとき、高津紙器さんに届けていただくことが何度かありましたね。

高津

緊急用にと取ってある容器を持ち出して。注文は急にポンと跳ねることもあるのですか?

青池さん

そうですね、先の予約状況は管理しているんですが、時々予想を超えることがありますね。

高津

外国人の方の購入が多いんですかね。それとも日本人?

青池さん

我々のターゲットは訪日される方。特にシンガポール・タイ・韓国籍の方が非常に多いです。最近は日本人のお客様のご利用増えてますので、日本人のお客様からもご好評いただいております。
特に丼ものシリーズが人気ですね。日本のご当地メニューであったりとか、日本の定番メニューを取りそろえる中でも、親子丼やチキン南蛮丼、あとは鮭の照り焼き丼、この三つは欠かせない王道です。

青池さん

青池さん曰く、何度も搭乗するリピーターのお客様も増えてきたそう。AirJapanは路線を拡充するために2025年に現在の2機から3機に移行したいという

高津

機内食の容器は、どんなものがさらに良いのでしょう?例えば、軽かったりとか、捨てやすいとか、つぶしやすいとか。5分で温まってほしいとか。

青池さん

5分で温まるのはすごく画期的ですね。サービススタイルにもよると思うんですよね。我々はお客様のタイミングでお好きなものをお召し上がりいただくというサービススタイルなので。
私たちは、グローブをして機内食を一個ずつオープンから出して、トレーにセットするんですけども、そのときに、一気にサーッとできたらいいなと思うことはあります。でもそうすると、カートの形状、トレーの形状、容器そのものだけじゃない話にもなってくる。

高津

そうなると容器だけで言うと、安定性とか、持ちやすさとか。

青池さん

持ちやすさは重視したいですね、火傷をしないように厚手のグローブするので、そうすると感覚が鈍るんですよね。それで持たなくちゃいけない、でも上だけを持つと蓋がポッと外れちゃうかもしれないのでしっかり持つ。でもしっかり持つと作業性が悪くて、新しくどんどん新しいカートを準備してキャビンに出さないといけないのに。

高津

それは、今回の検証時にもありましたね、中身が温まりにくいという課題のために、一枚ものにして試作をしたんですが、伝熱性はあるけれど持ちにくいし抜けてしまう。きっちり閉まって抜けにくくするために、形状は同じでしっかりと閉まるものにして設定温度まで上げるにはどうするか。

青池さん

フルサービスキャリアのビジネスクラスでは陶器を使ってますので、重いし熱いし、落としたら割れる。それに比べると持ち運びはずいぶんと楽ですね。落としたらいけませんけども、紙容器は重くて大変ということはないです。どんなに中身が詰まっていても。

青池さんと高津

「高津紙器さんの紙容器で日本品質のすばらしさを実感しました」と青池さん。器と味にこだわった機内食は注目度が高く、バンコクやシンガポールの路線では15〜20%程のお客様が機内食を事前購入しているという。

高津

弊社は航空関係の紙製品たくさん作っているんですが、スチームコンベクションに耐える物を作るというのは初めての経験で。紙にとっては非常に過酷な条件で。そういった貴重な経験をさせていただき、本当に勉強になりました。

青池さん

私たちが大事にしている日本らしさというコンセプト、空から日本らしさを届けるというところを具現化してくれているのが高津紙器さんの容器。もし違う容器であれば中身が同じ味だとしても伝わらないと思うんです。
そして、作ってくれているのが日本の企業である高津紙器さんということもすごく重要なことかと。
私たちも工場を視察させていただいので、技術が優れていて、食品工場並みに衛生面にも気を付けてくださっているというのも拝見しているので。高津紙器の皆さんがいらっしゃって、私たちが機内食を提供できているんだと実感しています。
当時の検証データを改めて久々に読み返したんですけども、あーやっぱり、いろいろ課題が あったなと思い出しました。

高津

本当にギリギリの納品でしたよね。あとは高津紙器としてご迷惑をおかけしないようにしたいと思います。これからもよろしくお願いいたします!

高津社長

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高津紙器工場の写真

高津紙器では、新工場の完成・南工場のリニューアルに伴い、これまで以上に衛生・品質管理を徹底し、お客様に安心した商品をお届けできるように努めています。実際、どのような取り組みを行っているのか、どのようなメンバーがものづくりをしているのか、工場のありのままの姿を、さまざまな社内取材を通してみなさまにお伝えしてゆきます。

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