連載
ファクトリートーク
#03
新たな機械×企画デザイン=サスティナブルな未来への可能性
人にも環境にも、優しい設計を目指して
-企画開発 デザインチーム・チームリーダー 長野 香織-
企画開発デザインチームの長野に、設計・デザインをするときに心がけていること、そして新しい製函機を使って今後作っていきたいものなど、話を聞きました。
使い捨てプラスチック削減という社会目標により、近年急増している紙トレーの需要。高津紙器では、地球にも人にも優しい紙トレーを自社オリジナルの食品向け技術を用い、製造しています。企画開発デザインチームの長野は、紙トレーの設計を担当するひとり。そして高津紙器のデザイナーでもあります。設計・デザインをするときに心がけていること、そして新しい製函機を使って今後作っていきたいものなど、話を聞きました。
長野
徳島県出身です。これまでは、イベント事業の設営施工会社や印刷会社で働いていました。最初の会社では、イベントの看板をデザインしたり、会場の図面作ったりと充実した日々を送っていたのですが、直前に働いていた印刷会社では、お客様からのデータを印刷用に直す作業がほとんどでした。
まだまだ何十年も働けると考えたときに、もっと自分で一からデザインができる会社に行きたいと思い、高津紙器で働き始めました。その当時は、デザイナーのみという募集はしてなかったんですが、営業をしながら企画デザインの仕事をしてみませんかということで。
それが2019年の10月ですね。最初は営業の見積もりや打ち合わせをしながら、設計やデザインの仕事もするという感じでしたが、徐々に設計やデザインをメインにさせてもらえるようになったんです。
これまでデザインの経験はあったのですが設計の経験はなく、そこは本当に苦しみました。最初のうちは、先輩に教えてもらいながら設計していたんですけど、しばらくして『マウスシールド』の設計の案件が会社に来たんですよね。
そのとき会社全体が忙しくて、「長野さんが一人でやってみてください」と社長に言われて。「無理です」と何度も言ったんですが、どうしても自分がやらなきゃいけない状況になり「もうこれはやるしかない」と腹を括りました(笑)
完成したマウスシールド。
自分で透明のシートをはさみで切って、セロテープで貼って…みたいな。今考えると工作です(笑)。何回も切って貼ってを繰り返し、それをトレースして図面におこして、ちょうど良い角度を保つための差し込みや切れ込みなど…。何度も何度も修正しました。
「コレでどうだ!」と思ってサンプルを社長に確認していただいたのですが、さらにそこからが千本ノック状態で。「ここが気になるんだよね」と何度も言われて、本当に心が折れそうでした(笑)。
今までやってきたデザインやイラストは、平面の世界だったんですよね。そこから立体のものを作る難しさっていうのはやっぱりあって。でも、昔の職場で学んだことや経験したことが少しずつ役に立ったんですよね。長い人生いろんな積み重ねや経験が、こういう所で活きてくるんだなあって(笑)。
おかげさまで、このマウスシールドはものすごく売れたんですよ。そのときには新聞の取材も来ていただいて「コロナ渦の暑さ対策や、聴覚障がい者の方とのコミュニケーションに役立つものを作られたんですね。長野さんのデザインで社会貢献をされたのですね」とおっしゃっていただいて。自分は依頼されたものを、ただただ必死に作ったのですが、それが社会貢献につながり、感動したことを覚えています。
ロクシタン様のスプリングギフトボックスとメッセージタグ。
ツジセイ製菓様のチョコレートパイのパッケージ。香川県のウユニ塩湖とよばれる人気スポット『父母ヶ浜』のキレイな海をそのままパッケージに。
カミ商事様のエルモア箱ティッシュ『Kazaru×wood』。くすみカラーとナチュラルなwoodでインテリアに馴染みやすいデザインに。
カミ商事様のエルモア箱ティシュ『Kazaru×gradation color』。
ときめくグラデーションカラーでもっとハッピーに。
シーンやお部屋の雰囲気、その時の気分で選べ、リラックス効果が期待できます。
長野
今は設計やデザインをしたり、直にお客様と接したり業者さんと話をしたり、日々学ぶことが多いです。ご依頼いただいてから短期間での提案ということもよくあるので、いかにお客様のニーズを素早く吸収し、カタチにできるか。そのために、日常生活でもいつもアンテナをはっておくようにしています。
大手のお客様との直接のやりとりもあり、ひとつひとつの案件がとても大きく、責任感とともにやりがいを感じます。デザイン以外にもネットショップの構築・運営と様々な業務を行っていて、たいへん慌ただしい毎日ですがとても充実しています。
ー 設計をする上で意識していることは?
長野
プラスチックに近い利便性を兼ね備えた商品になるよう工夫をしています。また、使用する際に指などを怪我しないために角を丸くしたり、組み立て式の商品であれば組み立てやすい配慮をしています。
それにプラスして、製造チームが抜きやすく貼りやすい設計を心がけています。紙の性質や表面加工、または形状によってミリ単位の罫線の工夫や角度や種類など。細かい所まで注意を払う必要があるんですが、細かな工夫をすることにより、材料ロス、エネルギーロス、人件費ロスの抑制につながっていくので。
「設計は思いやり」だと思うんですよね。私たちはデザイン会社ではなく、製造メーカーです。なので、言われたものをそのまま作るのではなく「使う人・作る人」のことまで考えて、思いやりを持って設計する。それが本当に大切だと思っています。
ー それは最初からできていた?
長野
いえ、最初は全然です。依頼のあったものを、ただただ忠実に作っていくことに必死で。でも、周りの人とコミュニケーションをとっていくうちに、色々な意見を聞くことができ、自分の中でのノウハウが蓄積されていきました。
これからも常に謙虚な気持ちを忘れずにあらゆる人の意見を聞き、使う人には使い勝手がよく、作る人にはなるべく作りやすい〝ちょうど良い〟設計やデザインを心がけていこうと思っています。
下:新しい機械の紙トレー。上:旧機械の紙トレー。側面のたわみが少なくなり、強度が上がっている。
長野
この春に、日本でも数台しかない新しい製函機を導入しました。これまでの機械だと、容器の強度を上げるためには紙をどんどん厚くしていくしかなかったんです。けれど、この新しい機械ではサイドの部分を二重に貼ることができるので、紙の厚さは変えずに、以前よりも強度が増した容器の製造が可能になります。
また、たわみも軽減でき、さらに新たな工夫も施せるので、プラスチックの蓋との嵌合性もアップします。それにより冷凍食品、お弁当、お惣菜など、今まではプラスチックの容器にしか入れられなかったものも、紙容器に入れることができると考えています。
これから様々なサンプルを作っていくのですが、有効寸法の範囲内でどこまで斬新な形にトライできるのか、機械メーカーの方とも何度も打ち合わせをしながら、日々勉強中です。
また、これまで長い間製造してきた、電子レンジ対応(耐水性・耐油性・耐熱性)の高機能を兼ね備えた食品一次容器から、キャンプや防災に役に立ちそうな直火に耐えられる紙鍋にもチャレンジしていく予定です。
今、プラスチックの削減は社会全体の共通の課題です。ですので、食品を扱っている企業の多くが、プラスチックから紙トレーへという意識に変わってきています。そういう背景もある中、この新しい機械の特性とアイデア次第で、よりプラスチックから紙への移行を推進していくことができると思っています。
紙容器への移行は、コスト面での負担が大きいと敬遠しがちですけど、早めに環境問題に着手することで企業のイメージアップにもつながるので、そういう面でも私たちが社会に貢献できると考えています。
ー これからの展望を教えてください。
長野
今まで培ってきた会社のノウハウに、新しい機械と企画力とデザインで、より使い勝手の良い紙容器を、どんどん生み出していきたいと思っています。個人的には、お客様のニーズに沿った上で、いかにオリジナリティのあるものができるか。他にない面白い形状やデザインで、SNS栄えも期待できるような個性のあるものを作っていきたいですね。
また、植物由来のものや再生素材など、サスティナブルな素材を使ったパッケージにもどんどんチャレンジしていきたいです。人も自然もずっと良い状態が続いていくように。
会社としては、もっと色んな人が集まってきてほしくて。おかげさまで日々、沢山の案件をいただいているのですが、今は結構人数がいっぱいいっぱいなので…。クリエイティブなことを考える余裕がなくなってきているように思うんです。
製品の質をアップしていくためにもさらに仲間が増え、当社の行動指針にもある「クリエィティブで勝負する」を、もっと加速していけたらと思っています。
設計やデザインの仕事が、環境問題や社会の役に立てると信じて、これからも技術を磨いていきたいです。
ファクトリートーク
高津紙器では、新工場の完成・南工場のリニューアルに伴い、これまで以上に衛生・品質管理を徹底し、お客様に安心した商品をお届けできるように努めています。実際、どのような取り組みを行っているのか、どのようなメンバーがものづくりをしているのか、工場のありのままの姿を、さまざまな社内取材を通してみなさまにお伝えしてゆきます。
2024.06.25 UP
2024.06.25 UP
#07(後編) 古紙の発生地にはどこへでも行く。多様な古紙をリサイクル・ルートに乗せて、リサイクルパルプの新たな価値を創造する日誠産業
サステナ見聞録第7回は、これまでの取材でもその技術力の高さで、たびたびお名前が登場していた、リサイクルパルプの製造販売を手掛ける、株式会社 日誠産業の島大樹専務をお迎えして、お話をうかがいました。後編をおとどけします。
2024.05.20 UP
2024.05.20 UP
#07(前編) 古紙の発生地にはどこへでも行く。 多様な古紙をリサイクル・ルートに乗せて、 リサイクルパルプの新たな価値を創造する日誠産業
サステナ見聞録第7回は、これまでの取材でもその技術力の高さで、たびたびお名前が登場していた、リサイクルパルプの製造販売を手掛ける、株式会社 日誠産業の島大樹専務をお迎えして、お話をうかがいます。
2023.11.28 UP
2023.11.28 UP
#08(後編) 初の展示会、どうだった?
食にまつわるメーカーが多く参加した展示会で、初めて作ったオリジナル商品である紙トレーやランチボックスはどのような反響があったのか、参加した社員に尋ねました。
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