連載
高津社長のサステナ見聞録
#04
カフェ・ポールスター
東輝実さん×高津社長
ゼロ・ウェイストから「サステナビリティ」って何?を学ぶ
社会に対して、私たちは何を「サステナビリティ」だと言うのか、しっかりと説明できるようにすることは、とても有益なことだと思っています。
上勝町に学ぶシリーズ第2回は美味しいランチをご用意くださったカフェ・ポールスターの東輝実さんと、ゼロ・ウェイストに取り組むことの本質的な意味や住民の思い、そして、そもそも「サステナビリティ」とは何なのか、国内外で「紙」に関わる企業の多様な取り組みなども紹介していただきながら、一緒に学びます。
地域の食材を使ったランチ。お箸やお盆も循環可能な自然素材で
高津
ランチ、ごちそうさまでした。大変美味しかったです。今日はよろしくおねがいします。
東さん
はい、こちらこそ。
今日の午後は、そもそも「ゼロ・ウェイスト」とは何か? そしてその先にある「サステナビリティ」って何だろう?ということについて、皆さんと一緒に考えたいと思います。
少しだけ私の自己紹介をさせてください。私は、上勝町に生まれ育ちました。大学を卒業後、上勝に帰り、仲間と共に合同会社アール・デ・ナイデを創業。このカフェ・ポールスターは、2013年から始めて、今年で9年目になります。2020年から「INOWプログラム」というホームステイ型のプログラムを提供させていただいたり、昨年からは「上勝町のゼロ・ウェイストタウン推進計画」策定事業に関わり、これからの上勝で「ゼロ・ウェイスト」をどうしていくか、町民と一緒に考える仕事もしています。
東さん
既にご存知かと思いますが、上勝町は2003年にゼロ・ウェイストを日本で初めて宣言しました。「ゼロ・ウェイスト」は、よく新聞や雑誌で「ごみゼロ」と日本語訳されることが多いですけれども、元々はごみだけじゃなく無駄とか浪費も含めて、「ゼロにしていく」ことを指す言葉なんですね。
上勝町では7年かけて81%のリサイクル率を達成できたので、2020年の新しい上勝ゼロ・ウェイスト宣言では、それまでと違った3つの目標を掲げています。
1つ目は、ゼロ・ウェイストに参加することで、私たちの暮らしを豊かにすること。「豊かさ」は、抽象的で測りにくいかも知れませんが、上勝町での暮らしが物理的・経済的・精神的、それぞれを豊かしたいねと話しています。
2つ目は、企業連携などを進めて、できるだけごみをゼロにするということ。
そして3つ目は、上勝でゼロ・ウェイストを学ぶ仕組みをつくりましょうということです。これを受けて、昨年、当社でゼロ・ウェイストタウン計画策定事業を受け、計画策定のための調査等を実施しました。
東さん
私たちは、プロジェクトを進めるにあたり、まず上勝にとって「ゼロ・ウェイストって何だろう?」ということを、自分たちが認識するためのワークショップからはじめました。
町民の皆さんに「ゼロ・ウェイストって何ですか」と聞くと、分別とか、一斉清掃、リメイク工房など、ごみをいかに少なくするかという活動だけでなく、秋祭りや棚田、上勝の伝統的なお茶づくりのことなども、「ゼロ・ウェイスト」なんじゃないか、という答えが返ってきました。
ですから、私たちにとって、上勝町のゼロ・ウェイストというのは、ただ単に廃棄物ゼロではないんですね。私たちはここで、自然と文化や伝統を守るために、手法としてのゼロ・ウェイストを取っているんだ、ということを、改めて考えています。
東さん
そこで、今年は何度か「かみかつ円卓会議」という場を設けまして、上勝町役場やBIG EYE COMPANYさん、ゼロ・ウェイスト関連の方たちに集まっていただいています。いまみんなが取り組んでいることや、それぞれが持っている課題を共有しながら、上勝町のゼロ・ウエイストについて、より深く考え、ひろげていくために、また、町内の企業連携を進めるために、みんなで話し合ってきました。
これまでのゼロ・ウェイストは、住民を対象にした施策が中心になっていて、住民が参加するための仕組みはあるんですけれども、町内外の企業さんと連携する仕組みができていませんでした。上勝町としては、円卓会議のメンバーとともに、できる限り上勝町内の企業、起業家や個人の方をつなげて、具体的な事業や商品づくり、サービス展開をサポートしていきたいと考えています。
例えば昨年度はじめた活動のひとつに、製品試作のワークショップがあります。葉っぱビジネスに取り組む「株式会社いろどり」さんとゼロ・ウェイストがコラボレーションして、新しい素材や製品づくりに取り組んでいます。
ゼロ・ウエイストでつなぐ新しい取り組み
●つながりをつくり継続するワークショップの開催
●企業連携プロジェクトのスタート
東さん
上勝町では、2030年を目標に、ゼロ・ウェイストについて一緒に考え、施策やプロジェクトをつくっていけるような学校をつくろうという計画があります。
学校設立までには時間がかかることなので、それまでに上勝という町が消滅してしまうかもしれないという危機感も持ちつつ、今民間の私たちができることとして、「INOW(いのう)プログラム」という滞在型のプログラムを企画しました。
これは町内で有機栽培を営む農家やアーティストと、町外から来る方とを結んで、1週間程度の滞在活動プログラムを提供し、ゼロ・ウェイストについて学んでもらうというものです。
上勝でしか学べないことは何だろう?と3年ほど試行錯誤をしてきたのですが、このプログラムでは、ここに滞在し、自分が持っている労力と時間とお金を何に費やして、その結果どういうごみが出るかということを、ゼロ・ウェイストという手法を通して総合的に学ぶことができます。またその結果として、自己内省を高める、深めていくようなプログラムがつくれそうだということが、わかってきました。
このノウハウを少しずつ蓄積して、上勝の学校づくりにつなげたいと思っています。
東さん
ところで、「サステナビリティって何ですか」と聞かれたとき、みなさんは、何と答えますか?
当然「持続可能性です」、「持続可能性を高めていくことです」と答える方が多いと思うのですが、ある時ふと「持続可能性」と「永続性」は何が違うんだろう?という問いが浮かびました。
「続く」ことを含む2つの単語ですが、大辞泉には、持続可能性とは「環境・社会・経済などが将来にわたって維持・保全され、発展できること」、永続性とは「ある状態が長続きする性質」とあります。
「サステナビリティが持続する」などと使われることもあって、何がどう「続く」のか、深く考えてみると、そこにはまだまだ自分が知らない視点や考え方があると思いました。
それでは質問です。サステナビリティから連想する色は何色ですか?
参加者
水色。
東さん
なぜですか。
参加者
きれいな空。
東さん
きれいな空がサステナビリティ。
参加者
淡いピンク。
東さん
なぜ?
参加者
夕陽みたいな、あったかい色。
東さん
夕焼けみたいな。
参加者
自然の、緑。
東さん
なるほど。今まで出てきた色と違う人、いますか?
参加者
茶色。
参加者
黄色。
参加者
淡い紫。
東さん
黄色は何から?
参加者
なぜかわからない。あったかい感じの。
東さん
茶色はなぜですか。
参加者
大地。
東さん
サステナビリティと言うとSDGsと結びつく人が多いのかなと思ったんですが、SDGsのマークは、原色に近い。そういう人はいない?
参加者
はっきりした色ではないと思いました。淡いイメージ。
東さん
面白いですよね。1つの言葉なのに、イメージはこんなに違う。共有できているようで、共有できていない部分がある、という事が良くわかるワークの1つです。
ゼロ・ウェイストでもサステナビリティでも、どういう角度で観ていて、どれくらいの深さで解釈しているのかということを捉え、いま自分からは見えていない面を探ってみる、ということが重要だなと思っています。
東さん
さて、それでは「サステナビリティと製紙」についても、いろいろな面からみていきましょう。
【脱プラスチック】
1つめは、全世界的に進んできた「脱プラスチック」という動き、皆さんよくご存じですよね。日本でも今年(2022年)4月に「プラスチック資源循環促進法」が施行されて、いろんな対応が求められています。EUでは昨年7月から、カトラリーとかストローとかが規制の対象になってくるので、早くチェンジしないと間に合わないという声もきこえてきます。
【森林・水・エネルギー資源】
2つめ、環境負荷という面から見たときに、紙の製造は森林の減少や生物多様性の劣化の原因になっているのではないか? ということです。また、製造過程で大量の工業用水が必要であるということ、紙を白くするための薬剤の使用であるとか、プラスチックをつくる場合と比較して4倍ものエネルギーがかかるとされていることなどが指摘されています。
【リサイクル可能かどうか】
リサイクル可能な紙類は限られており、汚れていたり、他素材とともに加工された紙製品は製紙原料としてリサイクルできない。プラスチックから紙に置き換わったといっても、可燃ごみになるのであれば、ごみの削減にはつながらないのでは?という声も聞かれます。
これはグリーンピースジャパンという環境保護団体のホームページに掲載されているデータですが、たとえば使い捨ての紙カップは、ほかの容器を使ったものよりも、二酸化炭素の排出量が多くなるとされています。スターバックスは2億3,940万個もの紙カップ使っているとのことで、グリーンピース・ジャパンの調査で挙がっている9つの大手カフェチェーン店が提供する飲料をリユース食器に変えるだけで、1,250トンのごみを削減できる計算になります。紙の使い捨て習慣が、環境負荷の削減を妨げているではないかという見方があるんですね。
高津
私たち高津紙器にとって、これは大変気になるデータですね。今は脱プラの流れから「紙が良い」とされ、紙製品が求められている実感がありますが、環境負荷の低い「使い捨て容器」を開発する事業の将来性について、この連載をはじめる前から考えていることでもあります。
東さん
そうですよね。だからこうして上勝にいらしてくださって、この場にご一緒出来ているのだと思います。私からは、サステナビリティに関する情報をいろいろな角度から提供させていただき、みんなで一緒に考えることが大切で、未来を切り開くために必要なことだと考えています。
東さん
実際、紙は優秀な循環型素材であるということが、よく知られています。ご存知のように、日本の紙のリサイクル率は高い。世界平均の59%に比べて、日本の古紙回収率は80%で、古紙利用率を64%も維持しているのはすごい!と思います。 世界の製紙メーカーも、古紙回収率の向上に力を入れようとしているようなので、日本の古紙の回収システムが既に先を走っているのは誇らしいことですね。
これは欧州の紙パルプ産業(CEPI:ヨーロッパ紙業連盟)のレポートにある情報ですが、環境への負荷と、パルプと紙の生産率が比例しないということがわかる分析です。一番上の折れ線が紙の生産率ですが、紙の生産が増えても、エネルギー、水、Co2、NOXなど、環境への負荷をあらわす数字の変化が連動していないことがわかります。
つまり、本来サステナブルなポテンシャルのある製紙業が、きちんと管理された森林資源を使って、上手にエネルギーを使い、必要な分を製造して販売し、また回収をして再資源化するというライフサイクルをマネージする。そうすれば、循環型で、非常に環境負荷の低いビジネスにできるということではないでしょうか。
東さん
ところで、世界ではどうなっているのか、少し調べてみました。欧州は規制が厳しくなっていて、大型の投資をしながらプラスチックの代替品の材料などを必死になって、開発しているようです。
世界で進む新素材のパッケージ開発
資源・製造・使用・廃棄、それぞれに開発テーマがあるなかで、特に廃棄の部分でどのような新しい道筋を見つけるかが鍵だと言われています。また、調べていて印象的だったのは、分解性を高め、堆肥化する方法だけでなく、回収して何度も使えるようにする、リサイクルできる新しいパッケージの開発に積極的に取り組もうとする姿勢でした。
さて、皆さんもご存じのように、日本でも紙をはじめ、プラスチックの代替素材が開発されています。主に「捨てても環境負荷が少ない素材」が多いと思いますが、海外では、こうした「捨てても環境負荷が少ない素材」が本当にサステナブルであるかどうかについても厳しい目が向けられています。
例えば「自然由来」と謳われている商品の、どの素材にどんなサステナブルな要素があって、どういうところを「サステナビリティ」と言っているのか。その商品の生産から流通、消費、リサイクルまで、すべての工程において「サステナブルであること」を説明する情報を提出できないものは、「グリーンウオッシュ」の可能性があると指摘されてしまうかも知れません。
ですから、皆さんの会社が「サステナビリティ」をどうとらえているか、これから世界で、もしくはソーシャルに対して、私たちは何を「サステナビリティ」だと言うのか、しっかりと説明できるようにすることは、とても有益なことだと思っています。
東さん
最近良く聞かれるようになった、「リジェネラティブ」という言葉をご存知でしょうか。「環境再生的」とも表現されています。「サステナビリティ」=持続可能性は、どちらかと言うと現状を維持しましょうという考え方ですが、現在の深刻な地球環境や社会の根本的な危機を回避するためには、現状維持では間に合わないかも知れません。現状維持ではなくて、今やっているビジネスや生産している商品が、環境や社会をより良い状態に変えていくことを目指すのが、「リジェネラティブ」という考え方です。
「リジェネラティブ」を掲げている企業のひとつに「LUSH」という石けんメーカーがあります。彼らは2016年頃から原材料の調達の方針を「リジェネラティブ・バイイング」といって、再生可能な原材料の調達に取り組んでいます。彼らが「イヌワシペーパー」と呼んでいる包装紙は、管理の遅れた人工林を間伐・皆伐して得た木材の、加工木くずを利用した和紙です。森林生態系の頂点にあるイヌワシの生育環境を広げ、木材は地域で使ってもらい、加工するときの木くずで、伝統和紙をつくります。まだコストがかかりますが、ある程度回って需要を生み出せば、この仕組が地域の経済を回し、生態系の保全だけでなく、伝統文化の継承にもなる。環境も社会も再生される、「リジェネラティブ」な世界に近づくというプロジェクトです。
ラッシュのプロジェクトサイト「みなかみの恵みから⽣まれたイヌワシペーパー」昔からイヌワシが暮らす群⾺県みなかみ町の国有林「⾚⾕の森」。イヌワシが狩りをしやすい環境を作るために人工林を間伐・皆伐を行い、その際に出る⽊くずを原料にしたイヌワシペーパーをラッシュではギフトペーパーとして利用しています。
もちろん、これが「グリーンウオッシュ」になっていないかどうか、注意深く見る必要もありますが、サステナビリティやリジェネラティブ、皆さんがこれから考える商品やサービスの、参考にしていただけたらと思います。
余談ですが、江戸時代の紙づくりは、木の枝の利用だけで成り立っていたという話があります。ご存知のように現在では、20年生ほどの木を伐り倒して材料にしますが、その頃の日本では木を伐り倒さずに、枝を材料にして紙を作っていたそうです。翌年また生える分の枝を使って紙を製造していた。そのうえ、台帳など記述に使った古紙は紙問屋が回収して漉(す)き返し、再生紙は鼻紙などにリサイクルされていました。これは当時世界的にも珍しいことでした。森林を伐採せずに育てながら、繰り返し紙の需要に応えていたというサステナブルで、リジェネラティブな紙業の歴史が日本にはあるんですね。
今「リジェネラティブ」という言葉は、飲食店や農業の分野でもよく使われているようです。いろいろな業界で、変化が求められるタイミングに来ているのではないかなと思います。
今日は、上勝はこういうふうに頑張っているよというだけで終わらないように、ゼロ・ウェイストの深さや広がりを知ってほしいと思って、いろいろなお話をさせていただきました。
お話しいただいた東さん
皆さんがこれからの事業を展開する上で、もしサステナビリティやリジェネラティブをあまりご存じでなければ、この場を機会に、ぜひ一緒に考えさせていただけたらと思います。今日はありがとうございました。
高津
我々のために、すごくきちんと調べてくださって、びっくりしました。これまで私たちが調べてきたこととは違う視点で 教えて頂きとても勉強になりました。ありがとうございました。
PROFILE
東 輝実(あずま・てるみ)さん
1988年生まれ。徳島県上勝町出身。
中学3年生の時に「将来は上勝に帰ってかっこいい仕事をしながら子育てする。」と決意。関西学院大学総合政策学部在学中にルーマニアの環境NGOや、株式会社トビムシでのインターンを経験。
2012年に大学卒業後、上勝町へ戻り起業。2013年、「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。2020年、2週間の上勝町滞在型プログラム「INOW(イノウ)」をスタート。
上勝町ゼロ・ウェイスト推進員、上勝町総合戦略会議委員なども務める。
高津社長のサステナ見聞録
私たち高津紙器では、地球環境問題/脱炭素社会への意識の高まりを背景に「プラスチックよりも紙」に追い風が吹いていることを認識していますが、 一方で手掛ける製品のほぼすべてが使い捨て用途であることから、紙だから「環境に良い」製品開発を行っていると言って良いものか、悩んでもいます。
そこで、この企画では自社の製品開発において改めて環境負荷を減らすためにできることは何か?を探し、環境意識の高いお客様に向けた提案力を高めることを目指して、 社長自らが見て聞いて、感じて学んだことを発信してゆきます。社員・スタッフはもちろんのこと、お取り引きのあるお客様にも広く共有させていただき、 一緒に取り組んでいけることを願っています。
2024.06.25 UP
2024.06.25 UP
#07(後編) 古紙の発生地にはどこへでも行く。多様な古紙をリサイクル・ルートに乗せて、リサイクルパルプの新たな価値を創造する日誠産業
サステナ見聞録第7回は、これまでの取材でもその技術力の高さで、たびたびお名前が登場していた、リサイクルパルプの製造販売を手掛ける、株式会社 日誠産業の島大樹専務をお迎えして、お話をうかがいました。後編をおとどけします。
2024.05.20 UP
2024.05.20 UP
#07(前編) 古紙の発生地にはどこへでも行く。 多様な古紙をリサイクル・ルートに乗せて、 リサイクルパルプの新たな価値を創造する日誠産業
サステナ見聞録第7回は、これまでの取材でもその技術力の高さで、たびたびお名前が登場していた、リサイクルパルプの製造販売を手掛ける、株式会社 日誠産業の島大樹専務をお迎えして、お話をうかがいます。
2023.11.28 UP
2023.11.28 UP
#08(後編) 初の展示会、どうだった?
食にまつわるメーカーが多く参加した展示会で、初めて作ったオリジナル商品である紙トレーやランチボックスはどのような反響があったのか、参加した社員に尋ねました。
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